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大人は判ってくれない

小学生の頃の話。

担任教師は教育熱心で強い信念の持ち主で、素直で明るく頭の良い生徒が好きだった。
私はそこそこ勉強ができるほうだったので、それはそれは贔屓され、可愛がられていた。
それ故に孤独だったので、教室では一人で絵ばかり描いていた。

どこで仕入れてきたのか解らない教育論を持ち出して、
深夜までかかる宿題をやらせては廊下に貼り出し、満足気に笑う教師だった。
自信をつけさせるためにと、自由に遊び思考する時間を奪ってまで、
あらゆるコンクールに参加させた。


できない生徒は徹底的に責められ、「中学生になったらもっと大変だ」と
必ず呪いをかけていた。実際、魔女のような風貌をしていた。

あれは真冬の木曜日だった。

我儘で、いつも誰かが手伝ってくれるのを
待っている女の子がいた。教室では黙っていても、
親経由で自分を主張し、ささいな誤解が大きくなり、
その度に誰かが納得しないまま謝る。
そういうことが続いて、皆その子に近づかなくなっていた。

前の日、彼女の靴に画鋲が入れられていて、靴下に着いた血を見た親から
教師に連絡がいき、授業を潰して、犯人探しと裁判が行われた。

あっけなく犯人は名乗り出て詫びたが、教師は泣きながら
「こうなったのはあなたたち全員の責任です。
 今から○○さんのお家に行って、謝ってきなさい」
そう叫んで職員室に引きこもった。

確かに画鋲を使って傷つけたことは許されない行為だし、
彼女への不満をそういう形でしか伝えられなかったことは
私たちが悪いと思った。

しかし、私は「謝りに行け」と言われて行く気がしなかった。
それは被害者の彼女のためでも、ご両親のためでもなく、
教師のパフォーマンスのためだと思ったからだ。

外は吹雪いていて、すでに暗くなっていた。

まだ本格的な反抗期を迎えていない可愛い子供たちは、素直に、言われるがまま、
先生を教室へ戻すために、吹雪の中を彼女の家まで謝りに行った。

私はというと、
吹雪の彼方に消えて行く皆を、窓から見送っていた。

皆がすっかり見えなくなると、彼女とご家族への
謝罪の手紙を書いた。


正確には全員−1だが、全員が直接謝りに行ったということで
ご家族は納得し、教師も職員室から戻ってきた。

教師は私に何も言わなかった。教室で独り時間割を眺めていた私に、
何も言わなかった。いつも可愛がっている生徒が自分の指示に
従わなかったことについて、何も言わなかった。

何も言えなかったのだと思う。

大人の言うことを鵜呑みにしない。

そう誓った。あれは卒業前の冬。

私は12歳だった。


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